デリケートな肌状態とは
肌がカサつきはじめたら、それは皮膚科学的にいえば角質層の角質細胞がめくれやすくなっている状態です。そのまま乾燥した状態を放っておくと、角質層のバリア機能が低下し、さまざまな刺激が内部へと入り込みやすくなります。そのうちに髪が触れただけでもムズムズしたり、さらに悪化するとかゆみや赤みが生じやすい状態に…。
このようにデリケートな肌状態にまで至ってしまうと、アトピー性皮膚炎の発症リスクはぐっと高まります。できるだけ早く、角質層のバリア機能を健やかな状態に立て直さなくてはなりません。では、どんなスキンケアをすればバリア機能は回復するのでしょうか。今回は、バリア機能において主たる役割を果たしている細胞間脂質について、よくある質問にお答えするかたちで解説していきましょう。
質問1–細胞間脂質は「脂質」だけに、化粧品で油分を足せばバリア機能は回復する?
例えば、ガサガサになった肌にワセリンを塗ると、刺激が入りこみにくくなり、弱ったバリア機能のサポートを果たしてくれる。これは、間違いではありません。しかし、どんな油分を足したところで、肌が自ら生み出す細胞間脂質の適正な保湿力に叶うものはないのです。肌がカサついてきた時、「ああ、細胞間脂質が不足しているから、なにか良質な油分を塗って埋めればいいんですね」というほど、肌のバリア機能はシンプルな構造ではありません。本質的にバリア機能を回復するには「肌自身による細胞間脂質の合成を促す」というのが正しいスキンケアのアプローチです。
質問2–バリア機能の回復には、セラミドが入った化粧品がベストと聞いたのですが…
確かにセラミドは、細胞間脂質を構成する主成分です。そのため、セラミド配合の美容液やクリームを塗ることで、不足している細胞間脂質のセラミドが補完されたと思ってしまう方は非常に多いと思います。しかし、実際のところ人間の肌の細胞間脂質の中のセラミド比というのは、30%以上といわれています。一方で、セラミド配合を強調している化粧品のセラミドの配合量は、1%にも満たないことがほとんど。つまり、いくらセラミドが入っている化粧品でも、細胞間脂質のセラミドが完全に補完されるわけではない、ということです。
もちろん、だから効果がない、と言い切れるわけではありません。セラミドや、そのほかの細胞間脂質の構成要素であるコレステロールを外用として塗ることにより、細胞間脂質の合成が促された、という試験結果や論文は存在します。ただ1ついえるのは、現代の皮膚科学においては細胞間脂質を人工的に再現し、バリア機能を一気に回復することはまだ不可能、ということです。
質問3–肌にやさしい植物オイルならばバリア機能を高めてくれるのでは?
オイル美容のブームにより、オイルが浸透してバリア機能の働きを高めてくれる、と思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、オイルもまた細胞間脂質の代わりにはなれません。しかもオイルの種類によっては、与えすぎると肌に備わっている自然な細胞間脂質の比率を崩してしまうものさえあります。ただ、同じオイル美容でも髪や爪にオイルを使うことは、また別のお話です。髪や爪には細胞間脂質というものがなく、肌の角質層と同じように死んだ角質細胞が集まった状態であっても、水分を蓄えてその蒸発を防ぐバリア機能があるかというと、構造的にはないに等しいのです。そのため、髪や爪にしなやかさを出すためにオイルを使うことに関しては、とくに問題がありません。
質問4 肌の内側から細胞間脂質を増やすには何をすれば良いのでしょう?
肌の細胞間脂質の合成において、鍵となるのは実は食事から摂取するコレステロールとマグネシウムです。コレステロールは細胞間脂質の原料なので、小マメに食事から卵を摂取するのがおすすめです。その際、オメガ3系のオイルを同時に摂ると、コレステロールが悪玉化することなく体内で働いてくれます。マグネシウムについては、天然塩や海藻などから摂れますが、肌への塗布によってもバリア機能の修復を促してくれます。詳しくは、コラム「ダメージはこうしてリセット!夏の肌荒れケア Q&A 質問1」をご参照ください。
また、せっかく細胞間脂質の合成を促しても、日々の洗顔などで奪い去ってしまっていないか、これからの季節はとくに”洗い過ぎ”に気をつけましょう。細胞間脂質と洗顔については、コラム「テカらず内から潤う肌に導く洗顔とは? もっとも重要なのは”洗う◯◯”です」で詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
茂田正和
スキンケアアドバイザー・化粧品開発者・日本皮膚科学会正会員
日東電化工業ヘルスケア事業部にて開発責任者を務めるほか、バランスケアアソシエーションを主宰する。皮膚科医、ヘアメイクアップアーティスト、美容ライター、料理研究家とともに真の美容のためのライフスタイルを提案するセミナーやワークショップを運営。